正常な血管では、血管内で血液が固まらず、ケガをして血液が血管の外に出ると固まります。血栓ができやすい血管は、この働きに異常が出ており、19世紀の病理学者Virchow(ウィルヒョウ)によると、それには、「血液」、「血管」、「血流」の3つの因子が関わると提唱されています(※)。
※浦野哲盟、鈴木優子、井原隼人、最上秀夫 血液及び血管内皮から見た血栓症リスク
よく「血液サラサラ」という言葉が使われますが、その逆の「ドロドロ」とはどのような状態なのでしょうか?血栓症のリスクという観点からは、血小板や凝固系が活性化されやすいこと、線溶系に異常をきたしている可能性が考えられます。
血小板とは出血した際に止血のために働く成分です。つまり、血小板が活性化されると血液が凝固しやすくなりますが、例えば精神的なストレスが大きい場合は、その傾向が強くなります。
また、そもそも血栓とは、フィブリンというタンパク質の糸のようなもので構成されていますが、血液の中では、最終的にフィブリンが生成される前段階の成分であるいくつもの凝固因子が存在しています。凝固系とは、この凝固因子の集団であり、この内フィブリノーゲンが増えることは血栓症の大きなリスクとなります。
逆に、血栓を溶解する線溶因子の集団は線溶系と呼ばれます。線溶系は、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1型(PAI-1)という阻害因子が増加すると、その働きが弱まり、血液の中で血栓は溶けにくい状態になります。
血管内で血液が固まりにくい状態を保つために働くのが血管内皮(血管の最も内側の層)細胞です。そのため、この細胞が炎症を起こしたり動脈硬化により障害されると血液が固まりやすくなります。
動脈硬化の内、動脈の内膜にコレステロールなどの脂肪からなるドロドロの粥状物質がたまってプラークができ、次第に肥厚することで動脈の内腔を狭めるタイプでは、プラークが破綻した際に凝固系が一気に活性化されます。これは、急性心筋梗塞や梗塞範囲の大きい脳梗塞を引き起こします。
血流が速いと赤血球はバラバラになり血液粘性は低下し、遅いと赤血球同士が凝集して粘性が増します。つまり、血流が遅いと血栓症を起こしやすくなりますが、この流速の変化はどうやって起こるのでしょうか?
血液が流れる速度は、心臓が血液を送り出す力や細い動脈で生じる抵抗によって変わりますが、静脈ではふくらはぎの筋肉が収縮することや呼吸運動による力も大きく関わっています。そのため、例えば、狭い飛行機の座席で長時間動かないことや、被災時に狭い乗用車の中で眠ることで、静脈に血栓が生じることもあります。